内定前の健康診断問題

2005.07.18

厚生労働省殿、胸部X線見直しの前にやっておくことがあるでしょう。

7月17日に「胸部X線:健康診断で廃止検討、有効性に疑問 厚労省」と報道されました。

 胸の病気の早期発見を名目に毎年1回、職場の健康診断で実施されている胸のエックス線検査について、厚生労働省は法的義務付け廃止の検討に入った。検査の有効性を示す証拠がないためだ。すでに専門家による検討会(座長・工藤翔二日本医大教授)を設置しており、結論次第で来年度にも廃止する。しかし廃止で1000億円規模の影響が出るとみられる業界は、検討会で「有効だとの証拠はないが、有効でないとの立証もない」と猛反発。日本医師会の委員も同調しており、最終調整は難航しそうだ。

 エックス線検査は労働安全衛生法の規則が定める職場健診の1項目。同法は72年の施行以来、事業者に対し年1回の実施、労働者には受診を義務付けており、罰則もある。受診対象者は現在、約5900万人に上る。

(中略)検討会では矢野栄二委員(帝京大医学部教授=公衆衛生学)が、職場健診での肺がんの発見率は低く見落としが多い▽他の病気も検査以前に症状が出るなどで健診で探す意義は薄い▽エックス線被ばくの影響で発がんする人が延べ数万回から10万回の受診に1人出ると推計される--と指摘。利益と危険のバランスを考え、義務を廃して特に必要な人だけを検査すべきだと主張している。

 一方、連合会副会長の柚木孝士委員は、検討会に出した資料で「(個々の病気の発見法としては)優れた検査法とする根拠は乏しい」と認めながら「有効性が低いとする根拠は確立されていない」と存続を訴えている。(後略)(毎日新聞 2005年7月17日 3時00分)

厚生労働省の官僚の皆様、検討会の先生方、短期間に何回もX線照射を受けさせられている人がいることをご存知でしょうか。それは「内定前に健康診断を受けさせられている就職活動生」です。

「入社時健診」を採用決定前に実施してもよいと勝手に拡大解釈している会社が、大手マスコミを中心に後を絶ちません。詳しくは本blogでたびたびコメントしてきた「内定前の健康診断問題」の各コラムをごらんください。

「血まで抜かれて、不合格」~内定以前の健康診断への疑問~(2003.06.22)
健康診断するということは、内定したということ。(2003.06.24、2005.04.14再掲載)
採用時の健康診断と、個人情報保護法。(2005.04.15)
健康診断する病院で、自分の内々定を確認してください。(2005.04.16)
内定前健康診断の「傷害罪」的考察。(2005.04.20)
縦割り行政。(2005.04.30)
不正で不潔な、内定前健康診断の例。(2005.05.01)

採用試験最中に健康診断を入れられれば、学生はそれを断るわけにはいきません。保健所にこのことを問い合わせると「それは(依頼する)会社側の問題」と回答され、労働局に問い合わせると「各種通達で入社時健診は採用前に行うものではないとされているが、法的な罰則はない」と答える、それが現実です。

厚生労働省は、医療と労働をつかさどる官庁です。しかしその両者はいまだ次官クラスまで行かなければ交わらないのでしょうか。

極めて小さいリスクだとしても、このような問題提起がされれば、入社時健診や職場健診にもインフォームドコンセントが必要だということが明らかにされたと言えるでしょう。年に1回の受診のリスクを語るのであれば、就職活動における学生への不当な医療行為にメスを入れ、はっきり法律で禁止する動きをすべきだと考えます。

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2005.05.01

不正で不潔な、内定前健康診断の例。

以下はあるマスコミを受験し、健康診断を受けた後に落選した女子学生からの投書です。これが何らまだ会社と雇用契約のない学生になされている実態です。それ以上にずさんな衛生対策や女性への配慮・プライバシー対策のなさに驚かせられます。

面接は本当に毎回毎回楽しく、和やかでした。面接自体は本当にありがとうございました、って言っちゃうぐらい満足しているんです。他の受験者も面接に関して文句を言っている人はいませんでした。

だけど、健康診断が問題でした。blogも読んでいたので、2次面接前から「微妙だなぁ」と思っていましたが、私は「それでもいい!!」と開き直っていました。

健康診断は社内の診療所でした。当然社員の方が男性も含めてうろうろしています。

健康診断のときに問題だなぁ、不思議だなと感じたことは

1.社員が使う部屋(たぶん気分が悪い人が休むための部屋)に入社していない人の分も含めた健康診断結果が置いてあること。私でも容易にわかるし、容易に見ることができました。今日健康診断だからそこに移動しました、というわけでもなさそうです。

2.正式なやり方はどうなのかわかりませんが、採血のとき、不衛生だと感じたこと。いっしょに受けていた友人も話していました。血はビン3本ほど抜かれました。

3.皆裸足なのに、スリッパが使いまわし。検査着も使いまわし。

4.男性は(たしか)下着のシャツ姿で移動していたこと。たぶんフロアをわけたり、時間も違うようにしてたと思うのですが、1人か2人の受験者に廊下で会いました。
  
女性は、青い検査着を着ます。下は何もつけていない状態です。当然すけてみえそうな状態で廊下を歩きます。男性社員がいる前で。しかも他人の着たあとをそのまま着ます。

5.レントゲンの前に妊娠の可能性も聞かれなかったこと。今までの病歴は面接を待っている間に、用紙に記入するようになっていました

6.(どこの企業でもやるのかもしれませんが)尿検査で肝臓のウロビリノ-ゲン?も調べていました。大学の健康診断ではやらないので、驚きました。肝炎だったら、採用しないってこと??と思ってしまいました。(たしかそういう裁判ありましたよね…)

7.本当になぜやったのか意味がわからないのですが、握力も検査しました。

※検査は身長・体重・握力・視力・聴力・レントゲン・血液検査・尿検査・心電図・問診でした。

以上が私がこの健康診断で不思議に思ったことです。

正直言って、最終面接の前から皆「今から採血か」と不安に思っている人もいたし、人によって面接が先か後か、違うので、トイレを我慢していた人もいました。この健康診断が余計なストレスになっているようにも思います。

私はまずblogを読んでいたので、疑問を持ちながら、本社まで来てるし、採血を今までしたことがなかったので、かなり不安でした。

別なマスコミも最終面接の時に健康診断をするそうですが、そこではガンとか結核とか大病しかチェックしていないと言っていたそうです。でも逆に言ったら、じゃあ病気だったら落とすのか、とも思うし、もし自分がガンでも知らされないままになるのも恐ろしいと思いました。

結果的には落ちてしまったのですが、あの棚に並べてあった診断結果のファイルを見て、「もし内定でも考えなおそうか」と思っていたぐらいなので、これでよかったような気がします(笑)あの棚に自分の結果も並ぶかと思うと、自分のだけ抜きに行きたい気持ちです。面接ではすごく良い印象だったのに、ちょっと裏切られた感じがしました。

■労協への要望■:テレビも新聞社も広告も、最終前に健康診断をしているところが多いようですね。
受験している私たちにはそれを断る勇気もないし、最終まで来ると何が何でもそこに入りたいという気持ちにもなっているし。私はこれからも選考が続くので、また健康診断をやることもたくさんあると思います。でも来年度からこんな余計なストレスを感じながら、最終面接を受けなくてもすむようになればと思って、この情報を報告しようと思いました。

あなたの不愉快な体験についても不適切採用報告からどんどん送ってください。

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2005.04.30

縦割り行政。

内定前の健康診断問題に取り組んで2年になりますが、この問題が解決しない理由は「厚生労働行政の縦割り」にあると確信しています。

今回「医療事業所」側の問題に切り込んでいくため、4月18日に実際に内定前健信を受託しているクリニックに電話してみました。「***さんの健康診断を受ける予定の学生なのですが…。」と切り出すと、電話に出た事務の女性は「あ、入社時健診ですね。」という言葉を使っていました。そこで「特に会社からは言われていないのですが、健康診断を受けるということは、入社を前提としているんですよね…。」と聞いてみたところ、「そういうことは会社に聞いてください。」の一点張りでした。様子からしてこのクリニックはこの健康診断が労働安全規則第43条に基づくものではないことを知っているようでした。

そこで今度はそのクリニックを所轄・指導する保健所に電話をし、今度は「うちの息子が内定もらわない間に健康診断を受けろと言われているが、つい最近も別な会社で内定前に健康診断を受けさせられた。そもそも43条の範囲外の健康診断が行われていることに、保健所はクリニックや会社の指導はしてもらえないのか」と話しました。すると「それは会社側の問題ですね」とあっさり言われました。

仕方なく今度は組合の名前で東京労働局に相談したところ、親身になって対応はしていただきましたが「会社の指導はできるが、医師の指導はできない」と言われています。そこで「では厚生労働行政として、医師側に指導する部署はどこか」と聞くと、調べた上で上記管轄保健所の名前が上がりました。これで無限ループの完成です。

我慢できず私は知り合いの厚生労働省の医療行政の指導官に聞いたところ、「厚生労働行政といっても、相互には何もつながりがない」とはっきり言われました。また43条は労働安全規則であるため、企業(事業者)に対する定めということもあり、医療事業所に対する法律ではないという解釈のようでした。

結局この問題の根源は、43条の根拠でないのに43条を装った「会社のウソの申告」によって健康診断業務が行われている点だと言えそうです。しかし、より多くの健康診断を請け負った方が儲かるという理由で黙認しているクリニックの存在も否定できません。

このような縦割り行政の中では、この問題については労働局から企業側への個別対応でしか解決できないようです。根本解決には医療倫理と個人情報保護の観点から医療事業者の自覚を促すことと、労働安全規則上に内定前健康診断禁止を明文化することが必要です。

広告労協だろうが私個人であろうが第三者には違いなく、企業や医療事業者から当事者資格に欠けると言われる可能性もあるでしょう。それを後押しするのは「おかしい」と思っている学生の声です。「不適切採用情報提供」からあなたの体験をお聞かせください。

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2005.04.20

内定前健康診断の「傷害罪」的考察。

2005年4月19日、東京労働局職業安定部職業安定課人権啓発担当の方に直接連絡をし、内定前の健康診断問題について話をしたところ、以下の見解をいただきました。

●労働安全管理規則第43条「雇入時の健康診断」は、採用が決定しているものを対象としているものであり、採用が決まっていない人を対象とするものではない。
●内定通知前にそのようなことが実施されているとすれば、実施している会社を教えてもらえれば是正の指導をする。

私は失礼ながら「それは行政としての見解ですよね」と確認し「そのとおりです」と答えていただいています。さらに「では何を根拠に健康診断を実施しているんでしょうね」と聞くと「さあ…。人権上も問題ですよね。」とおっしゃっていました。これで企業が内定前の学生に健康診断をすることには法律的な根拠が何もないことがはっきりしました。

そこで一つ新たな疑念が浮かびました。本来人の体に針を刺すのは傷害罪に該当するものですが、医療上の行為に限って罪を免れます。しかし法律の根拠のない依頼に基づいて医療機関が人に針を刺し、体にエックス線を照射することは、医療上の行為として傷害罪を免れることができるのでしょうか

例えば人の髪を切ることも本人の同意がなければ傷害罪に相当する行為です。内定前に健康診断を強いるのは、いわば髪を短くすると校則で決まっている学校の入試で、合否を出す前に学校が床屋を指定して受験者に髪を切らせることと同じです。どのような理由があれ落選者という当事者から見れば圧倒的に立場の強いものの横暴と断じざるを得ません。

医療機関は会社の説明に基づき受託しているだけです。検査対象が43条の対象外の学生であることを知っていたら、受託できるはずがありません。したがって学生に針を刺す行為はもっぱら会社に責任があると言えます。「その時点では知られる必要のない」個人情報を取得されるために、無駄に針を刺され無駄にエックス線を浴び、結果も不採用だったときの肉体的精神的ダメージは確実に立証できるはずです。女性であればエックス線を受ける前に妊娠している可能性の質問にも答えなければいけません。証拠も揃えやすく、法律家にとって興味ある案件なのではないでしょうか。

しかし私は法律家ではありません。私のこの問題への結論は1つです。「健康診断した人を全員採用すること」、これで何ら問題はありません。

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2005.04.16

健康診断する病院で、自分の内々定を確認してください。

2日間連続で発表している「採用過程での健康診断問題」ですが、診断を実施する医師や医療機関側に問題はないのでしょうか。

健康診断は労働安全管理規則にあるとおり会社が責任をもって行うことですから、その費用は全額会社が負担します。したがって病院は会社との間で目的をはっきりさせた上で契約し、受験者の健康診断を受託します。少なくとも採血したりレントゲン写真をとったりすることは「医療行為」には違いありません。健康診断というデリケートな行為を第三者との契約で行うことは極めて例外的なことです。病院にとってはそれが適法な依頼であり、目的外使用がないことを慎重に確認して請け負っているはずです。

医師が会社からの依頼で健康管理する対象は、労働安全管理規則に則り会社と本人が就業を合意している人(従業員および従業員になることが内定(内々定)している人)に限ります。会社も内定を出しておらず、学生も内定承諾書に押印していない中での健康診断は、医師として明らかに排除すべき行為です。

労働安全管理規則の条項には直接的な会社への罰則規定がないため、「やっちゃえやっちゃえ、学生は文句言わないだろう」という会社があっても不思議ではありません。しかし医師は同意しない人への医療行為は明確に禁じられており、違反すれば医師法上の罰則があるはずです。通常のインフォームドコンセントと同様、医師には健康診断する理由の説明と本人の同意の確認の義務があると考えます。血液型を実際に調べないで輸血することはないように、少なくとも内定承諾書の署名捺印を確認してから医療行為を行うべきです。

会社の中に健康診断設備があるところは稀ですので、たいていは外部のクリニックにいくことになります。いずれにせよ医師や看護士は職業柄余計なことを会社には伝えませんので、安心して医師や看護士または病院に直接「健康診断してるってことはすでに私は内々定ってことですよね。健康だったら採用するってことですよね。」と確認してみてください

きっと「そうだと聞いてますよ」と言ってくれる「はず」です。

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2005.04.15

採用時の健康診断と、個人情報保護法。

いくつかの会社で最終選考の局面となってきました。残っている学生の健闘を心より願っています。

過去「健康診断するということは、内定したということ。」というコラムでその問題点を指摘してきました。しかしいまだに選考の途中段階で健康診断を実施する会社が存在するようです。

「内定」とは「解約権留保付労働契約」のことであり、特別な事情がない限り採用を約束するものです(この意味で「内々定」という言葉と事実上同義です)。この「特別の事情」に「健康上の理由」が含まれます。そのままでは明らかに就労に耐えることのできない容態であり、その後の治療の甲斐も見られないような時は、使用者としての安全配慮義務が果たせない恐れがあります。このような場合は採用を取り消すことは問題ありません。特に広告業界は激務ですので、個人的な意見からも就職せずにまず体を治すことが第一だと思います。

しかし健康診断の結果というものは、究極の個人情報です。2005年4月1日に全面施行された個人情報保護法の定めでは、個人情報の収集においては目的をはっきり明示させなければいけません。以下条文を転載します。

個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号) 第四章 個人情報取扱事業者の義務等 第一節 個人情報取扱事業者の義務

 (利用目的の特定)
第十五条 個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。
2 個人情報取扱事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。

 (利用目的による制限)
第十六条 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。
(中略)

 (取得に際しての利用目的の通知等)
第十八条 個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。
(後略)

労働安全衛生規則第四十三条の定めにより、就業させるのであれば健康診断を受診させ業務に耐えられるか確かめなければいけません。したがって健康診断をする目的を「内定(内々定でも同じ)を前提に行う」とはっきり説明されていれば全く問題ありません。しかし選考課程途中にある健康診断は、昨年までの例ではその情報の取得目的が極めて不明瞭なものがほとんどでした。

健康診断を選考の材料にすることは上記コラムでも述べたように就職差別の原因になりえると厚生労働省が認めています。個人情報保護法のポリシーはコンプライアンス(法令遵守)活動の証として一般に公開し、収集する対象に説明するものですので、その目的が行政通達に反するものであるはずがありません。

この度面接と健康診断を同じ週に行う会社があるようですが、実際に会社が学生へどのように説明するか注目しています。個人情報保護法施行直後ということもあり、きっと健康診断の前に「選考の結果、内定(内々定)を出します。このため健康診断を受けてもらいます」という説明があるはずです。

面倒なことにならないためにも、体調を整えて健康診断に臨みましょうね。

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2005.04.14

健康診断するということは、内定したということ。

2003年6月24日、2年近く前に発表したコラムの再掲載です。



会社が選考の時に実施する健康診断について、色々調べたところ、「健康診断するということは、内定したということ。」という結論に至りました。

(1)採用時に健康診断をする根拠

新卒採用に限らず、企業が雇用する際の健康診断の実施根拠は、以下の「労働安全衛生規則」にあります。

労働安全衛生規則(昭和四十七年九月三十日労働省令第三十二号)
第四十三条(雇入時の健康診断)
 事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。
  • 既往歴及び業務歴の調査

  • 自覚症状及び他覚症状の有無の検査

  • 身長、体重、視力及び聴力(千ヘルツ及び四千ヘルツの音に係る聴力をいう。次条第一項第三号において同じ。)の検査

  • 胸部エックス線検査

  • 血圧の測定

  • 血色素量及び赤血球数の検査(次条第一項第六号において「貧血検査」という。)

  • 血清グルタミックオキサロアセチックトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミックピルビックトランスアミナーゼ(GPT)及びガンマ―グルタミルトランスペプチダーゼ(γ―GTP)の検査(次条第一項第七号において「肝機能検査」という。)

  • 血清総コレステロール、高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)及び血清トリグリセライドの量の検査(次条第一項第八号において「血中脂質検査」という。)

  • 血糖検査

  • 尿中の糖及び蛋白の有無の検査(次条第一項第十号において「尿検査」という。)

  • 心電図検査


  • (2)規則の濫用、曲解に対する労働省の事務連絡

    しかし、この規則を根拠に、「健康診断の結果で採用判断をする」という企業が続出したため、平成5年に以下の労働省連絡が各都道府県職安課長に通達されました。(以下強調文字は筆者によるもの。)

    ●「採用選考時の健康診断について」
    平成5年5月10日付け事務連絡
    労働省職業安定局業務調整課長補佐及び雇用促進室長補佐から各都道府県職業安定主管課長あて

     近年、新規学校卒業者の採用選考時に、事業主が労働安全衛生規則第43条(雇入時の健康診断)を根拠としていわゆる「血液検査」等の健康診断を一律に実施し、公正な採用選考の観点から問題となっている事例が見受けられるところである。

     しかしながら、同規則は採用選考時の健康診断について規定したものではなく、また、「雇入時の健康診断」は、常時使用する労働者を雇入れた際における適性配置、入職後の健康管理に資するための健康診断であることから、採用選考時に同規則を根拠として採用可否決定のための健康診断を実施することは適切さを欠くものである。

     また、健康診断の必要性を慎重に検討することなく、採用選考時に健康診断を実施することは、応募者の適性と能力を判断する上で必要のない事項を把握する可能性があり、結果として、就職差別につながるおそれがあるところである。

     このため、採用選考時の健康診断の実施については、従来より必要に応じて指導を行ってきたところであるが、今般、労働基準局安全衛生部労働衛生課長から各都道府県労働基準局労働衛生主務課長に対し「雇入時の健康診断」の趣旨の徹底について別紙のとおり通知した旨連絡があったので、各都道府県においても、下記の文例を新規学校卒業者向けの求人説明会の配付資料に盛り込む等、事業主に対して「雇入時の健康診断」の趣旨を十分徹底し、応募者の適性と能力のみに基づく公正な採用選考を行うよう指導されたい。

    近年、新規学校卒業者の採用選考時に、労働安全衛生規則第43条に「雇入時の健康診断」が規定されていることを理由に、いわゆる「血液検査」等の健康診断を一律に実施している事例が見受けられます。

     しかし、この「雇入時の健康診断」は、常時使用する労働者を雇入れた際における適性配置、入職後の健康管理に役立てるために実施するものであって、採用選考時に実施することを義務づけたものではなく、また、応募者の採否を決定するために実施するものでもありません。

     また、健康診断の必要性を慎重に検討することなく、採用選考時に健康診断を実施することは、応募者の適性と能力を判断する上で必要のない事項を把握する可能性があり、結果として、就職差別につながるおそれがあります。

     したがって、採用選考時にいわゆる「血液検査」等の健康診断を実施する場合には、健康診断が応募者の適性と能力を判断する上で真に必要かどうか慎重に検討していただきますようお願いします。

    要するに、「健康診断はあくまで採用後の適性配置・健康管理のためにするものであり、採用決定のために実施するものではない。結果として就職差別につながる恐れがあるので、血液検査を採用時に実施するときには慎重にしてほしい。」という見解を、労働省(当時)が出したということです。いいかえれば、内定を出した後に、従業員に実施する健康診断と同様の位置づけで実施しろということになります。

    その後も、官公庁、警察、企業が肝炎やHIV感染者を採用差別するといった社会問題が起こり、再度、以下のような連絡が通達されています。


    ●「採用選考時の健康診断に係る留意事項について」
     平成13年4月24日付け事務連絡
    厚生労働省職業安定局雇用開発課長補佐から都道府県労働局職業安定主務課長あて

     標記については、平成5年5月10日付け事務連絡「採用選考時の健康診断について」により、公正な採用選考を確立する観点から、普段より各種啓発資料を活用するなど、雇用主に対する啓発・指導を行っているところである。

     今般、別添、健康局総務課長、疾病対策課長、結核感染症課長連名通知「当面のウイルス肝炎対策に係る体制の充実・整備等について」により、「C型肝炎ウイルス等の持続感染者に対する差別は、偏見を基礎にしたものであり、地域や職場においてこれらの偏見を排するよう、正しい知識の普及・周知徹底を図る必要がある」旨述べられている。

     ついては、職業安定機関においても当該通知等にも留意しつつ、今後とも、採用選考時の健康診断については、職務内容との関連においてその必要性を慎重に検討することなく実施することは、結果として就職差別につながるおそれがあり、採用選考時にいわゆる「血液検査」等の健康診断を実施する場合には、健康診断が応募者の適性と能力を判断する上で真に必要かどうか慎重に検討するよう雇用主に対する啓発・指導に取り組まれたい。(以下略)

    この事務連絡では、特に様々な症状がわかる「血液検査」を選考時に実施することには十分慎重になるべきだという方針が見られます。特に先の労働安全衛生規則第四十三条では、血液検査する項目を限定していますので、それ以外の検査を実施することの牽制になっているともいえます。

    (3)血液検査を実施するなら、その前に内定を出すべき。

    この経緯を見ても、血液検査を実施するなら、企業はその前に内定を出すべきという結論が分かります。なぜなら、採用時の健康診断は、雇い入れを前提に実施するものであり、選考のために実施するものではないからです。

    当然企業も、何らかの疾病が見つかった場合には、「採用を前提に」入社までに治療するよう指導します。それでも入社までに一切の業務に就けないほどの病状であれば内定取消の可能性はありますが、そうでなければ内定取消することはできません。

    したがって、学生の皆様は、本来「健康診断を実施する=内定した」と考えて結構だと思います。実際、ほとんどの企業がこのような扱いにしています(上記根拠を会社が熟知しているかは別ですが。)

    仮に内定告知前に健康診断をする旨言われた場合、「それは、内定をいただいたという理解でいいですよね。」と確認してみてください。

    先のコラム(「血まで抜かれて、不合格」~内定以前の健康診断への疑問~)でコメントした企業に間接的にヒアリングしたところ、今回の当落については健康診断の結果を反映したものではないが、来年から選考過程中に健康診断を実施するのは止めるという回答をもらっています。今年の「痛い」注射を広告労協が知ることで、来年以降同様の痛い目を出さないようにできたことは大きな成果だと考えます。

    就職活動生の立場は圧倒的に弱いものですが、法律は本来会社に厳しくできています。困ったこと、疑問点があったら、小さいことでも広告労協に報告してください。みなさんの声が、会社をむしろ「よく」していくのです。

    参考文献 全国IDDMネットワークホームページ「採用選考時の健康診断」
    http://www5.ocn.ne.jp/~i-net/20021130kenkousindan.html

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