広告労協の活動が始まって以来、多くの広告業界の採用で地方支社での試験が行われ、最終面接では交通費を支給するようになってきました。しかし、残念なことに今年から1次試験を全員東京本社に集めて実施している中堅広告会社があります。関西に支社があるにもかかわらずに、です。
自分は経費で出張できるのもかかわらず学生を東京に呼びつけ、バイトも授業も放棄して自腹で上京する学生のことを考えると怒りすら覚えます。この会社の関西支社社員には学生を見る目がないのでしょうか。
このような状況が今後変わっていくことを、いや変えていかなければいけないということを念頭に、2003年8月11日に発表したコラムを再編集したものを以下に掲載します。
(1)内定ありなしにかかわらず、数十万円かかる、就職活動。
今地方の学生が、就職活動にいくらお金を費やしているか、国会議員や行政は知っているのでしょうか。
地方の学生は、筆記を受けるためだけに夜行バスや学割新幹線・飛行機で上京し、採用担当と会話を交わすこともなく帰っていきます。面接試験に勝ち残る学生は、1次、2次と自腹で上京しますが、最終の役員面接で「地方から出てきたら親御さんが心配するだろう」といった理由で落とされることがあります。そのような学生は「そんな理由で落とすなら、最初から落としておいてくれ!」と悲鳴をあげています。このように、地方受験生の「最終落ち」の無力感は、それまでにかかった交通費、移動時間、出席できなかった講義のことを考えると、私たち社会人はもとより、在京学生にすら想像を絶するものになっています。
地方の受験生の就職活動への全面的な交通費会社負担はほとんど実施されていません。役員面接ですら交通費を出さない会社があります。もちろんこれは一概に否定すべきものではありません。例えば受験生の交通費の会社全負担が義務付けられるようなことがあれば、採用の過程で地方出身者が冷遇される恐れがあるでしょう。
しかし、今の学生には、少なくとも私が就職活動をしていた時代と違い、以下の点で大いに苦しんでいます。
地元での採用数が減っており、必然的に東京の企業も受験せざるをえない。
就職活動の早期化・長期化により、アルバイトも十分にできない。
不況により親の収入が減り、授業料の自己負担の割合も高い。
在学中から国民年金の支払い義務が発生している。
このような背景を考慮すれば、広告業界「内定者」でも平均交通費が地方学生で20万円を超え、50万円かかったという回答も少なくないというのは、極めて不幸な状況です(労協登録生04年入社での調査)。ましてや内定のない学生が大半であり、広告業界を目指した交通費は無駄になっていることを思うと、すでにこれは一つの社会問題と定義すべきものだといえるでしょう。
(2)就活生のための、3つの政策提案。
(1)「就活奨励金」制度
勤労者は失業時には雇用保険で収入を得、次の就職に向けて準備することができます。しかし、学生はどうでしょう。まだ税金や雇用保険を納めていないから、就職についての行政上の支援を受けられないというのでしょうか。
就職活動は、「将来税金を支払うための活動」といえます。教育を受けた将来のある若者がきちんと就職をし、税金を支払う環境を整えるのは、税収、年金、果ては社会の安定・発展にまで直結する日本の一大課題です。そのために国家・行政は、学生に「就職してもらう」ために、様々な支援をすべきです。実際に厚生労働省は未内定者への就職支援などに様々な取組みをしています。しかし、現実に地方の学生が数十万円規模の借金をして就職活動に臨んでいるという費用面の現状をもっと直視すべきなのではないでしょうか。
教育にもコストがかかるように、就職にもコストがかかる。であれば、「奨学金」に相当する以下のような融資制度(仮称「就活奨励金」)を、国が用意してもいいと考えています。
就職活動をする新卒学生は、国から「就職活動奨励金」として50万円程度まで低利子で借り入れることができる。
借り入れ金は、就職(=収入が発生)してから10年程度で分割返済。
これはあくまで融資制度であり、国庫からの新たな負担というものではありません。やろうと思いさえすれば、いつでも開始できる施策だと考えます。雇用保険の基金を活用するのがもっとも簡単でしょう。
(2)就活費用の経費扱いによる、国民年金負担の軽減
サラリーマンは年間38万円を基礎控除額として課税対象外とされています。企業が支払う通勤費も課税対象外であり、個人事業者であれば交通費は経費扱いとなります。
就職活動における交通費は「経費」そのものです。交通費以外にもセミナー受講費、書籍・資料購入費、スーツ購入など、さまざまな「経費」があります。収入のない学生とはいえ、将来の税金を支払うための活動に対しては、課税上の経費控除の措置がされてもいいはずです。
学生にとっての税金は、「国民年金」です。平成3年から、収入に関係なく20歳以降強制加入となった国民年金は、無収入者への税金ともいえるものです。就職活動における費用を一定金額を上限として経費として認め、「国民年金掛金を一部控除する」というアイデアを提案します。
具体的には、
企業の人事が、受験時と場所を記載した「採用試験受験証」を受験時に学生に発行。学生はその場所までの交通機関発行領収書を用意。
就職セミナー受講では、主催者が就職セミナー受講料の領収書を発行。
リクルートスーツも、リクルートスーツ代として領収書を発行。
これらの領収書を添付し社会保険庁に提出することにより、国民年金掛金を一定割合控除する。
というものです。少なくとも、もっとも経費が認められていないサラリーマンの基礎控除額である38万円程度は、経費扱いを認めるべきだと考えます。
もしも国民年金からの控除という考え方が認められないのであれば、就職後の課税所得から控除する「事後精算」という手法も検討されるべきだと思います。
(3)「支社での採用試験」の行政指導。
本HPで就職活動を支援している「広告業界」は、ほとんどが東京に本社があります。関西など支社がある会社も多くありますが、採用では筆記試験から東京で実施する会社が決して少なくないことが分かっています。広告業界だけでなく、東京に本社がある企業は一般的に東京で集中的に採用試験を実施する傾向にあります。
企業にとっては1事業所で採用試験を実施するのが楽でしょう。しかし、就職活動は社会的なイベントでもあり、学生には収入がないという前提で、企業にも学生側の事情を考えてもらう必要があるでしょう。少なくとも関西、中部、九州など、学生が多い地方に支社がある企業は、できるだけ地元での選考試験を実施するべきだと考えます。また、最終の役員面接を本社で実施する場合は、交通費の全額会社負担をすべきです。
良識のある企業は、すでに上記のことを実践しています。しかし学生にとってはできるだけ多くの数の企業を受験しなければならず、今や企業側の学生への配慮は、行政からの要請や指導を伴ったレベルが求められているといえるでしょう。
本コラムは、あくまで著者の私見です。しかし、このボランティアに3年間も関与するにあたり、新卒学生への経済的支援は絶対かつ早急に必要であると確信しています。今後広告労協内でも議論し、学生団体や大学団体などと話し合いながら、実現の方向性を探っていきたいと考えています。