私は「健康診断するということは、内定したということ。」というコラムで、
血液検査を実施するなら、企業はその前に内定を出すべきという結論が分かります。なぜなら、採用時の健康診断は、雇い入れを前提に実施するものであり、選考のために実施するものではないからです。
と書きました。
このコラムでは、内定後の健康診断で重大な問題が分かっても内定取消できないと言っているのではありません。万が一「就労不可能」なレベルであれば本人に状況を説明し就労させることはできない(=内定取消)ことを伝えなければいけません。健康を理由とした内定取り消しは状況により合法なのです。
しかし健康診断と最終面接を行った後に当落を通知している会社は残念ながら現在も数多く見られます。今年大手広告会社でも行われたことは、業界にいる者として極めて残念に思います。なぜそのようなことができるのでしょうか。
この件について、2004年4月30日に顧問社会保険労務士を通じて東京都労働局職業安定部に問い合わせをしたところ、以下のような回答がありました。
(1)企業側が「雇入時の健康診断」と「採用選考時の健康診断」を混同しているのではないか。採用選考時の健康診断は「できる限り実施しない」のが原則である。
(2)選考時の健康診断を行う場合は、「業務に不可欠な項目」に限定すべきである。法令で認められているものには、例えば国土交通省令の運転手に対する色覚検査がある。法令に定めがなくても、印刷の業務などは色覚検査が必要と認められる場合がある。
(3)選考時に健康診断を行う場合は、少なくとも志望者に血液検査等の健康診断の目的と検査項目を明らかにすべきである。ことはプライバシーに関することである。健康診断を行うことに合理的な目的があること、および志望者の納得を得ることが重要である。
(4)すでに不採用となったケースについては、学生本人から血液検査の目的と検査結果および不採用の理由を問い合わせたらどうか。
(5)行き過ぎた健康診断など具体的な問題があれば、企業の所在地を管轄するハローワークが窓口になる。ハローワークは企業に事実確認をしたうえで行政指導の趣旨の理解を求める。ただし、現行の法律では禁止することまではできない。
結局、「現行の法律で禁止することまではできない」というところが限界のようです。
しかし人物評価で採用するつもりのない会社に健康診断させられるのは明らかに不要なことです。何社も選考を受けざるを得ない学生にとって、何回も健康診断を受けることは肉体的負担を強いるものに間違いありません。短い時期に何回もX線照射や血液採取を受けさせることの健康上のリスクを、企業はどう捉えているのでしょうか。また、企業に委託を受けて健康診断を実施している産業医などの医師は、行政当局が避けるべきとしている診断業務を、職業モラル上どう考えているのでしょうか。
学生の立場は極めて弱いものです。このような企業サイドの都合は、企業市民として許されるはずがありません。行政通達が出ている以上、不採用の学生が企業および医師に肉体的・精神的被害への民事訴訟をおこせば、十分勝ち目があるのではないでしょうか。内定前の健康診断問題についてその企業名を冠した判例が生まれるわけです。
そのような事態になる前に、企業はもっと学生本位の採用活動を進めていかなければなりません。同時に労働行政はもっと企業の新卒採用の現状を知り、適切な指導をすべきです。そして、健康診断結果による内定取消に企業側の一定基準を作ってでも、採用通知前の健康診断を禁止する法律を制定すべきだと考えます。